◆ラン 森絵都
子どもの頃から大好きな作家、森絵都の作品。森絵都作品に登場する、世間の枠から少し外れているような、感受性が強く、普段は自分の心を閉ざして内向的なのにスイッチが入ると時折敵意をむき出しにして他人を拒絶しようとする、そういう気難しい感じの主人公象が自分のメンタルと近いような気がして、私はこの作家の本に一番感情移入ができます。
そしてそんな主人公が紆余曲折を経て最終的には前向きな気持ちをもって歩んでいく物語のラストに、励まされたり自分を見つめなおしていくことが多いです。
「誰が一番不幸なのか?」というような問いが、この物語では何回か投げかけられていたような気がしました。家族を一度に失って天涯孤独な身の上の主人公、環なのか。うだつの上がらない亭主とニートの子ども、寝たきり姑の介護を抱えた毒舌おばさんの真知栄子なのか。環は真知に対して「そういう愚痴が言えるのは家族がいるからこそ。あなたは恵まれている」と思っている描写があったけど、そうやって自分と他人で不幸比べをしているうちはきっといつまでも後ろ向きな感情からは逃れられないんでしょうね。。。としみじみ思いました。
自殺未遂から生還した真知も、「不幸なんてものを心のよりどころにしていては行き着く先は醤油一気飲み」と言ってたけど、本当にそうですよね。可哀想な自分を演じてそれに甘えているようでは、状況はなにも好転しない。
環はあの世にいる家族に会いたい一心でフルマラソンに挑むのだけど、トレーニングに励めば励むだけ、40キロというあの世への完走が近づけば近づくだけ、自分自身も強くなってあの世への執着が必要なくなっていく……というのが、皮肉というか、そんなマイナスな現象ではないのだけど、よくできているなあと思った。
朝ジョグを始めた時と久米島のマラソン大会のスタートラインに立った時との環の心情の変化を思うと、なんともいえない爽快さを感じます。
前向きで、とてもさわやかな気分になれる読後でした。
********
クリックしてもらえると嬉しいです(´∀`)
PR